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2011/01-06月公開
2010/07-12月公開
2010/01-06月公開
 
   
第123回推薦映画上映会/2011年10月13日(木) [開場]18:00 [開映]18:45

『やがて来たる者へ』 10月22日より、岩波ホールにて ほか全国順次ロードショー

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『やがて来たる者へ』 10月22日より、岩波ホールにて ほか全国順次ロードショー 『やがて来たる者へ』 10月22日より、岩波ホールにて ほか全国順次ロードショー
©ARANCIAFILM 2009  
  2009年/イタリア/117分  配給:アルシネテラン
  [10月22日より、岩波ホールにて ほか全国順次ロードショー ]
 
大黒 昭(株式会社アスピカ 会長)

 この事件を出来るだけリアリスチックに描こうとした映画である。キャストの多くも地元の人々が動員された。主役は少女マルティーナ。生まれたばかりの弟を自分の腕の中で亡くしたショックで言葉を失った彼女は、かえって曇りのない目で事件を追うことが出来た。子供にパンをくれたドイツ兵がパルチザンに処刑されたり、妻子あるドイツ兵が平気で住民を虐殺する。この事がマルティーナにとって理解出来なかったに違いない。それだけに少女の眼を通じて映った戦争の悲劇がひしひしと伝わってくる。エンディングに映画の題名の意味が潜んでいる。

             
藤原作弥(元日本銀行 副総裁)
 イタリア・ボローニャ近郊の美しい自然の中で質朴で平和な農村。第二次世界大戦末期、ナチス・ドイツはパルチザン狩りの最中に無辜の住民を大量虐殺した。しかも、そのほとんどが、女性、子供、老人…。その悲劇の出来事をいたいけな少女の透明な眼を通して淡々と描く鎮魂と告発の大作。3.11以後の日本の場合の“やがて来たる者へ”のメッセージは何か。
 
三沢秀介(俳人)
 この映画のラストシーンは、殆んど宗教画を想わせる崇高な沈思と静謐を観る者に要請する忘れ難いものである。遺された8才の少女が嬰児(みどりご)の弟を抱いて大きな倒木の枝に座って低い声で唱う姿は、哀しみのなかにも生きることへの決然たる強さがあって、映画ならではの表現には万感溢れるものがある。イタリアの静かな山村の生活と風景、そこに侵入してくる独軍、抗するパルチザン、そして余りに不条理な殺戮。少女の澄んだ大きな瞳がそれらを写しとって多くを語り、しかしなにも語らない!
       
 
 1943年12月。ドイツ軍とパルチザンの攻防が激化するなか、イタリア北部の都市ボローニャに程近い小さな山村にも戦争の影が徐々に迫ってきていた。8歳のマルティーナは、大所帯の農家の一人娘。生まれたばかりの弟を自分の腕のなかで亡くして以来、口をきかなくなっていた。ある日、母のレナはふたたび妊娠し、マルティーナと家族は新しい子の誕生を待ち望むようになった。だが、戦況がいよいよ悪化し、地元の若者たちは密かにパルチザンとしてドイツ軍に抵抗を続け、両者の緊張が高まるなか、翌年9月29日、ドイツ軍がパルチザンを掃討する作戦を開始する……。
 第二次世界大戦中の歴史的事件「マルザボットの虐殺」を少女の眼差しで捉えた本作は、今もなお、世界中で絶え間なく続いている戦争の悲劇にたいして、このような過ちを二度と繰り返してはならない、という製作者たちの未来への願いがこめられている。2010年、イタリアのオスカーといわれるダヴィッド・ディ・ドナテッロ賞において、並みいる話題作をおさえ、作品賞を含む主要3部門受賞。ほか各国映画祭29部門受賞した、イタリア映画を代表する一作。
 
第122回推薦映画上映会/2011年9月29日(木) [開場]18:15 [開映]18:45

『ツレがうつになりまして。』 10月8日より、全国にてロードショー

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『ツレがうつになりまして。』 10月8日より、全国にてロードショー 『ツレがうつになりまして。』 10月8日より、全国にてロードショー
©2011「ツレがうつになりまして。」製作委員会  
  2011年/日本/121分  配給:東映
  [10月8日より、全国にてロードショー]
 
浅香光健(浅香流演劇舞踊名取)

 売れない漫画家でマイペースの妻ハルさんの夫、超まじめなツレが突然うつ病になる。二人の生活は一変。ツレを支え、励まし、生活のため漫画が売れるように頑張るハルさん。病気の克服に一喜一憂するツレ。ふたりの日常がほほえましく時には哀しく描かれる。
 宮アあおいが好演、堺雅人が見事に演じる。余貴美子、大杉漣が脇を固める。ホロっと泣けてほんわかハッピーな夫婦のおはなし。

             
藤原作弥(元日本銀行 副総裁)
 うつ病による自殺者増大の現代世相。物語は、生真面目な夫がストレスから発病したうつ病をノンシャランな妻が健気に支えて危機を乗りきる―というケース・スタディ。日本人は「頑張ろう」という言葉が好きだが、これはうつ病患者に禁句のときも。最近はとくに高齢者にうつ病が増えているとか。この映画を観て、私も「ツレが…」と言われぬよう“頑張ろう”と思った(危険な兆候?)。
 
山形泰雄(元株式会社松屋 副社長)
 うつに悩む勤勉サラリーマンと、女流漫画家夫婦の泣き笑い人生。会社を辞めてしまった「ツレ」(堺雅人がとても良い味を出して好演)を支えるのは、売れない漫画を描いているマイペースの妻(宮アあおいが巧いし、可愛い)。夫婦は悪戦苦闘だが、仲の良さと人柄の良さで、この難局を乗り切って行くというお話。
 佐々部清監督は『日輪の遺産』で、女子中学生を優しく感動的に描いているが、本作では、この若い夫婦の日常を暖かい眼差しで、ほのぼのとしたドラマに仕上げていて見事。
       
 

 うちの家族は、私(妻・崎晴子)とツレ(夫・幹男)とイグアナのイグのちょっと変わった家族だ。ツレは仕事をバリバリこなし、毎朝お弁当まで作っちゃうスーパーサラリーマン(だった)。おまけに性格は超ポジティブ。そんなツレがある朝、真顔で「死にたい」ってつぶやいた!何があったのツレ?一体どうしちゃったのツレ?病院での診断結果は、うつ病(心因性うつ病)だった。仕事の激務とストレスが原因らしく―、そういえば、病気の予兆があったようなないような?結婚5年目、ツレの変化にまったく気づかないなんて…ゴメンね、ツレ。そして、うつ病の原因が会社にあるなら辞めちゃえばいいのになって思った私に「会社辞めないなら、離婚する!」と告げられたツレが主夫になり、家事嫌いの私は内心嬉しかったり…。だけど収入源がなくなった崎家は貧困街道まっしぐら!私は編集部へ行き、大胆発言をした。「ツレがうつになりまして、仕事を下さい!」
 本作は、夫がうつ病になったことをきっかけに、これまでの自分たちを見つめ直し、成長していく夫婦の姿を描いた、細川貂々(ほそかわてんてん)ベストセラーコミックエッセイ「ツレがうつになりまして。」の待望の映画化!ともすれば暗くなりがちなうつ病という題材を明るくコミカルに綴った原作の良さをそのままに、人は十人十色、夫婦は百人百色、だからハッピーをモットーに自分たちらしくあろう!という型にはまらない夫婦のあり方をユーモアたっぷりに描いた珠玉のラブストーリー。

 
第121回推薦映画上映会/2011年8月18日(木) [開場]18:00 [開映]18:35

『日輪の遺産』 8月27日より、全国にてロードショー

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『日輪の遺産』 8月27日より、全国にてロードショー 『日輪の遺産』 8月27日より、全国にてロードショー
©2011「日輪の遺産」製作委員会  
  2011年/日本/134分  配給:角川映画
  [8月27日より、全国にてロードショー]
 
秋山 茂(元映倫外画審査員)

 敗戦の直前に下された密命。かつての帝国陸軍が奪取したマッカーサーの財宝を隠匿せよ!という知られざる歴史のミステリー。従事したのはたったの3人の軍人ほか、男性教師1人と20人の幼い女子生徒だけだった。浅田次郎の原作が、佐々部清によって完成した。同時代に学徒として動員先で終戦のご詔勅を聞いた者としては、当時を想起して感無量。当代の若者たちに是非観てほしい一作である。

             
藤原作弥(元日本銀行 副総裁)
 山下将軍が奪取したフィリピンのマッカーサーの財宝を戦後の日本再生のために奥多摩山中に隠匿する陸軍秘密作戦の冒険譚―といってしまえば単なるエンターテイメントだが、本作品にはさまざまな付加価値がついている。
 昨年発刊された「終わらざる夏」も然りだが、浅田次郎の終戦秘話には、凛とした日本人の愛国の矜持と反戦思想が矛盾なく同居しており、感動を呼ぶ。密命を帯びた三人の軍人と純心無垢な幼い勤労奉仕の少女たちの心の交流。「出て来いニミッツ、マッカーサー」という“軍歌”のリフレインが効果的。映画の成功はスタッフ、キャストもさることながら、ストーリー・テラーの浅田次郎に負う所が大。
       
 

 終戦間近の昭和20年8月10日。帝国陸軍の真柴少佐は、阿南陸軍大臣ら軍トップに呼集され、ある重大な密命を帯びる。山下将軍が奪取した900億円(現在の貨幣価値で約200兆円)ものマッカーサーの財宝を、秘密裡に陸軍工場へ移送し隠匿せよ―。その財宝は、敗戦を悟った阿南らが祖国復興を託した軍資金であった。真柴は、小泉中尉、望月曹長と共に極秘任務を遂行。勤労動員として20名の少女達が呼集される。御国のため、それとは知らず財宝隠しに加担するが、任務の終わりが見えた頃、上層部は彼女らに非情きわまる命令を下す。果たして少女達の運命は?そして財宝の行方は?
 「鉄道員」「地下鉄に乗って」など数々の名作を世に送り出してきた、日本を代表するベストセラー作家・浅田次郎自身が、映像化を熱望し続けてきた同名小説の映画化。わたしたちの国、未来を一途に想う日本人としてのプライド=矜持を、戦後60年以上を経た今、現代の日本人に問う、心揺さぶるエンターテインメント大作。

 
第120回推薦映画上映会/2011年7月27日(水) [開場]18:00 [開映]18:45

『未来を生きる君たちへ』 8月13日より、TOHOシネマズ シャンテ、新宿武蔵野館、シネマライズにて ほか全国順次ロードショー

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『未来を生きる君たちへ』 8月13日より、TOHOシネマズ シャンテ、新宿武蔵野館、シネマライズにて ほか全国順次ロードショー 『未来を生きる君たちへ』 8月13日より、TOHOシネマズ シャンテ、新宿武蔵野館、シネマライズにて ほか全国順次ロードショー
©Zentropa Entertainments16  
  2010年/デンマーク、スウェーデン/118分  配給:ロングライド
  [8月13日より、TOHOシネマズ シャンテ、新宿武蔵野館、シネマライズにて
ほか全国順次ロードショー ]
 
馬場 彰(株式会社オンワードホールディングス 名誉顧問)

 二人の子供とそれぞれ真摯に生きる勇気ある父親。子供たちの世界も大人の世界も、一皮むけば暴力の世界と隣り合わせである。理解しがたい親子の世代ギャップを、映画がつまびらかに描いているうちに、子供は暴走し、親の正義感も遂にはじけ飛んでしまう。然しながら脆くて強い美しい母親も含めて、復讐を赦しへと反転するラストは美しい。まさに“未来を生きる君たちへ”希望をつなぎたくなる。デンマークを代表する女性監督に、大いなる拍手を送りたい秀作である。

           
後藤昭次(立教大学 名誉教授)
 着想から映像、そして展開へ、まことに巧妙に製作された作品である。原作のタイトルは「復讐」で、英語版のタイトルは「A Better World」である。
 悪や暴力に対する寛容とは何か。人類のかかえる大問題を日常的物語としてドラマ仕立てにした本作は、深く重たい問いを身近に引き寄せて見事である。監督の手腕が光る。
       
渡辺俊雄(NHK衛星映画劇場 支配人)

 舞台となるアフリカの紛争地帯では無意味な抗争が繰り返され、文明国であるはずのデンマークの学校では執拗なイジメが繰り返される。映画は二つの世界の二つの物語を同時進行的に語りながら、「復讐」と「赦し」について観客に考えさせる憎しみを越えた、その先に明るい未来はあるのか。ユダヤ系でデンマーク出身の女性監督スサンネ・ビアは、この重いテーマを突きつけながら、未来を担うであろう子供たちの姿の中に、希望を見出しているかのようだ。
 世界映画選手権ともいうべき、アカデミー賞とゴールデン・グローブ賞の外国語映画賞をW受賞した力作である。

 

 アフリカの地に赴任し、キャンプに避難している人々の治療を行うスウェーデン人医師のアントン。その父だけが心の支えになっている息子のエリアスは、同じく医師の母と弟とデンマークに暮らしているが、歯の矯正からネズミ顔≠ニバカにされイジメを受けていた。ある日、転校生のクリスチャンによって、イジメっ子から救われたエリアスは、彼との距離を急速に縮めていく。一方、アントンは自身の離婚問題や毎日搬送される瀕死の重傷患者に苦悩していた。そんな時、“ビッグマン”と呼ばれる男が怪我を負い、キャンプに現れる。彼こそが子供や妊婦を切り裂くモンスターだった……。
 許しと復讐、善と悪、生と死、愛と憎しみ、これら境界のギリギリの線上で揺れ動く登場人物たち。有機的につながったこのドラマは、張りつめた負のスパイラルが許しへと鮮やかに反転していく結末まで、圧倒的な緊張感をもって描かれる。本年度アカデミー賞と、ゴールデン・グローブ賞最優秀外国語映画賞をW受賞した、スサンネ・ビア監督の最高傑作。

 
第119回推薦映画上映会/2011年6月24日(金) [開場]18:30 [開映]19:05

『海洋天堂』 7月9日より、シネスイッチ銀座ほか全国順次ロードショー

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『海洋天堂』 7月9日より、シネスイッチ銀座ほか全国順次ロードショー 『海洋天堂』 7月9日より、シネスイッチ銀座ほか全国順次ロードショー
©2010, Nice Select Limited. All Rights Reserved.  
  2010年/中国/98分  配給:クレストインターナショナル
  [7月9日より、シネスイッチ銀座ほか全国順次ロードショー]
 
後藤昭次(立教大学 名誉教授)

 この映画はドラマであるが、監督のシャオルーは、現実に障害児の施設でボランティアをした経験があって、その経験からこのドラマを創り上げたという。私たちは毎日のように、新聞やテレビで、介護の果てに相手を殺めてしまう家庭の悲劇を見聞きしている。このような悲しい現実を見ながら、美しい人々を描き出している。この父親を取り巻く周囲の人々が、まことに心優しい人々なのだ。それは監督の願いと祈りから産み出された、もう一つの現実かも知れない。

           
後藤武久(文化・スポーツアナリスト)
 末期ガンに侵され余命幾ばくもない父親が、自閉症を持つ、愛する我が子の将来を想い、自立させようと努力する姿を描いた感動作。
 家族の厳しい現実を直視しながら、父子の日常を優しく、温かく見つめる監督の観客眼が光る。理解するには時間がかかるが、一度覚えれば手を抜かず仕事をするという自閉症の特性を捉えて、指導する父親役をジェット・リーが好演。父の夢が叶い自立した子が海亀と泳ぐラストシーンは感動の一語に尽きる。
       
藤原作弥(元日本銀行 副総裁)

 自閉症の息子を抱えた父親が癌死を宣告されて生きる余生の日常生活を丹念に描く。その抒情性が観る者に静かな感動を与える。これが中国映画?と思わせるタッチ。空の青と海の蒼の青島の背景と久石譲のBGMが美しい。ベテラン女流脚本家の初監督だが、すでに完成された力量。

 

 水族館で働くシンチョンは、泳ぐことがなによりも好きな自閉症の息子ターフーを男手ひとつで育ててきた。ある日、シンチョンは自分が癌に冒され余命わずかだと知らされる。残された時間で、自分亡き後も息子が普通に暮らしていける術を見つけなくてはならない。ようやく世話をしてくれる施設を確保した父は、息子に最後の贈り物を用意していた……。
 父ひとり子ひとりで慎ましく生きてきた二人が、突然直面する厳しい現実。父は自分をうまく表現することができない息子の将来を案じ、ひとりで生きていく術を息子に教えこんでいく。卵のゆでかた、買い物の仕方、バスの乗り降り、一歩一歩できることから…。そのやりとりはどこかユーモラスであり、慈しみに満ちている父と子の絆をテーマに描いた感動作。監督は『北京ヴァイオリン』の脚本家シュエ・シャオルーが自ら務め、また、この脚本を読み大泣きしたジェット・リーがノーアクション、ノーギャラでの出演を熱望、新境地に挑んでいる。

 
第118回推薦映画上映会/2011年5月27日(金) [開場]18:00 [開映]18:50

『光のほうへ』 6月4日より、シネスイッチ銀座ほか全国順次ロードショー

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『光のほうへ』 6月4日より、シネスイッチ銀座ほか全国順次ロードショー 『光のほうへ』 6月4日より、シネスイッチ銀座ほか全国順次ロードショー
©2009 Focus Features LLC. All Rights Reserved.  
  2010年/デンマーク/114分  配給:ビターズ・エンド
  [6月4日より、シネスイッチ銀座ほか全国順次ロードショーー]
 
後藤昭次(立教大学 名誉教授)

 刑務所の中で、金網越しにふと見ると、弟が、兄がいるじゃないか、この映画を象徴するシーンである。映画はこの社会の底辺に、これほどの悲惨と不幸が存在することを、強烈なタッチで描く。社会リアリズムだ。社会保障制度、教育や職業の制度など、また生活保護や保護施設の運用も十分に機能していないではないか。原題の「Submarino」とは、頭を水に漬ける拷問方法を言うが、社会は底辺に生きる者たちの頭を水に漬けて立ち上がれないようにしているのではないか。悪人などではない切ない兄弟を、なぜ社会は救えないのか。立ち上がらせる仕組みや方法を間違えているのではないか。自立の責任を問う前に、社会の側も制度や運用上の問題を問うべきではないのか。光はどの方向から差し込むのか、どう捉えれば良いのか、それは社会の側に課せられた責務ではないか。

         
藤原作弥(元日本銀行 副総裁)
 デンマークは典型的福祉国家だが、格差社会は厳然と存在する。底辺を這う母子家庭。兄と弟はアルコール中毒の母が産みっぱなしにした弟の赤ちゃんを可愛がって育てる。その嬰児の突然死がトラウマになってか、長じてからの二人もアルコール中毒や麻薬中毒に冒され悩み苦しむ。
 カラー映画だが、ドストエフスキーの世界を思わせる白黒モノトーンの人間ドラマ。『光のほうへ』という邦題は<子供>という希望の光明の寓意か。冒頭の幼子を失うエピソードが因縁の輪廻のようなエンディングにつながる―。
     
山形泰雄(元株式会社松屋 副社長)

 デンマークに対して持っていた「北欧の穏やかな国」というイメージを変えてしまうくらいに、この作品は厳しい人々の生活を真摯に描いている。悲劇的な子供時代を過ごし、愛という言葉も知らずに育った二人の兄弟の人生は、アルコール、薬物に依存せざるを得ない過酷なものだ。
 トマス・ヴィンターベア監督は、二人の兄弟の厳しい運命を通じて、人間の愛の本質を糺すという、味わい深い作品に織り上げた。登場する二人の幼児と少年が、絶望と未来の夢を象徴する重要な役割を果たす、感動の名品。

 

 悲劇的な子供時代を過ごし、人を愛することも、愛されることも知らずに育った兄弟。10代の頃に経験した幼い弟の死を受け入れられず、心に傷を残したまま大人になった彼らは、関わることなく別の人生を送ってきたが、それぞれに哀しみ、怒り、焦燥感にとらわれ、もがきながら毎日を生きていた。アルコール依存症だった母親の死をきっかけに再会した兄弟は、ふたたび気持ちを通わせようとするのだが……。
 カンヌ国際映画祭審査員賞を受賞した『セレブレーション』で注目を集め、ラース・フォン・トリアーが脚本を手がけた『DEAR WENDY ディア・ウェンディ』のトマス・ヴィンターベアが監督作品。2010年のベルリン国際映画祭コンペティション部門で上映され、世界中から熱狂的に迎えられた。また、2011年のデンマーク・アカデミー賞では、米アカデミー賞外国語映画賞にノミネートされているスザンネ・ビア監督作品『In a Bettre World』を上回る、最多14部門にノミネートされ、見事5部門を受賞した、トマス・ヴィンターベア監督の最高傑作。